倉庫業でも出来る営業の譲受とは!?営業所と倉庫だけを他社に譲渡

倉庫業でも出来る営業の譲受

近年ではM&A(企業の合併や買収)の一つである事業譲渡が多く行われています。事業譲渡については色々と定義がありますが、一般的には「会社が営む事業の全部または一部を、契約によって他の会社などに譲り渡すこと」を指します。

会社分割や株式譲渡と異なり、事業譲渡では譲渡対象とする資産・負債・契約関係・従業員などを個別に選定できる点が特徴です。つまり、不要な部門を切り離したり、特定の事業だけを売却したりすることが可能です。

倉庫業においても登録を受けた営業所と倉庫を他の会社などに譲り渡すことが可能です。この記事では、その定義と具体的な手続きについて分かりやすく解説します。

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営業の譲受とは

先にも述べたとおり、一般的な事業譲渡には色々と定義がありますが、倉庫業については条文によって定義が決まっています。

倉庫業では事業譲渡ではなく『営業の譲受』(えいぎょうのゆずりうけ)という用語が使用されています。あくまでも倉庫業の営業を譲受(もしくは譲渡)することを指します。

条文の紹介

倉庫業法施行規則等運用方針の〔14〕営業の譲受による承継の届出(則第 13 条)では以下のように意義について記述されています。

営業の譲渡譲受の意義

営業とは、倉庫業の目的に供するために結合された財産的組織体であり、動産、不動産、債権、債務等のほか営業上の秘訣、得意先等の取引関係も当然これに含まれる。営業の同一性が全体として認められる限り、1営業所に係る営業のみを譲渡譲受の対象とし又は営業の構成部分の一部例えば動産、債権等を除外して譲渡譲受の対象としても差し支えない。従って、次の場合には営業の譲渡譲受とは認められないので注意すること。


イ 事業所又は倉庫のみの譲渡譲受
ロ 倉庫業の登録を受けたという地位のみの譲渡譲受
ハ 倉庫の譲渡譲受を伴わない営業の譲渡譲受


倉庫業の本質上倉庫施設は営業の中心部分を構成するものであるから、倉庫施設を伴わない営業の譲渡譲受は認められない。ただし、譲渡人の所有権又は賃借権を有する倉庫施設を譲受人が借用する場合は営業の同一性が全体として認められるので、営業の譲渡譲受と認められる。

営業の定義

条文にあるように、営業とは営業所や倉庫などの不動産だけでなく、そこで働く人や取引先などの関係を含む、多角的な意味を持っていいます。そのため営業の同一性が損なわれるような譲受は認めれていません。

譲受できないパターン

一方で、譲受ができないパターンについても定義されています。

  • イ 事業所又は倉庫のみの譲渡譲受
  • ロ 倉庫業の登録を受けたという地位のみの譲渡譲受
  • ハ 倉庫の譲渡譲受を伴わない営業の譲渡譲受

イ 事業所又は倉庫のみの譲渡譲受

営業所のみや倉庫のみでは、倉庫業は営業できませんので譲渡譲受は不可能です。

ロ 倉庫業の登録を受けたという地位のみの譲渡譲受

営業所と倉庫の両方を譲渡譲受しないで、登録情報のみの譲渡譲受は不可能です。

ハ 倉庫の譲渡譲受を伴わない営業の譲渡譲受

もちろん倉庫がなければ営業できませんので、倉庫の譲渡譲受が必要です。

全部と一部の違い

一般的な事業譲渡と同じように、倉庫業の営業の譲受についても、全部を譲受する場合と一部を譲受する場合に分けることができます。対象となる資産には以下のようなものがあると考えられます。

  • 不動産
  • 取引先
  • 債務
  • 従業員
  • 什器備品
  • 車両
  • データ
  • 設備
  • 重機

これら以外にも資産と考えられるものはあると思いますが、それらについても任意で譲渡譲受をするかを決定することが可能です。資産となるものを洗い出し譲渡譲受するかを、譲渡譲受契約書に記していきます。

不動産の特別な譲受

譲受できないパターンのなかで「倉庫の譲渡譲受を伴わない営業の譲渡譲受」とありましたが、必ずしも不動産の所有権まで譲渡譲受することを指しません。倉庫業の譲受においては、新しい倉庫業者は、倉庫の所有権を取得しなくともよいことになっています。元の倉庫業者が所有者のままで、新しい倉庫業者と賃貸契約を結ぶ形でもいいとされています。

具体的な手続

手続では、軽微変更届出の中の「譲渡譲受届出」の形式で運輸局に提出します。また、譲渡譲受契約書の写、営業所及び倉庫の名称の新旧対照表、登記簿の謄本、役員が欠格事由に該当しない旨の宣誓書を添付します。約款や料金表に変更がある場合は、同時にそれらの変更の届出書を提出します。

  • 譲渡譲受届出
  • 譲渡譲受契約書の写
  • 営業所及び倉庫の名称の新旧対照表
  • 登記簿の謄本
  • 役員が欠格事由に該当しない旨の宣誓書

譲渡譲受契約書の写とは

譲渡譲受契約書は特に決まった書式が存在していません。営業の全部もしくは一部のどちらを譲渡譲受するにしても、細かく対象となる資産について書き出すことをおすすめいたします。また事業譲渡を専門とされている弁護士に作成を依頼することについても強くおすすめいたします。

発券と非発券

倉庫業者には、発券と非発券という括りがあります。発券とは「倉荷証券」を発券できる倉庫業者のことを指します。倉庫業の登録を受けた事業者が貨物の受取の事実を証し、かつ、寄託者又はその指図人へ受奇物引渡を約する有価証券です。倉荷証券が発行されると、寄託物引渡請求権の行使・移転にその提示・交付が必要となります。倉庫証券を発行するためには、発券倉庫業者として登録を受けている必要があります。

発券倉庫業者から営業の譲受をされる場合は、認可申請の手続きが必要となります。特に、非発券倉庫業者が引き継ぐ場合は、以下の書類を用意することとなります。

  • 集荷見積書
  • 見積損益計算書
  • 所要資金及びその調達方法に関する説明書
  • 登記簿の謄本
  • 役員が欠格事由に該当しない旨の宣誓書
  • 最近の営業年度の貸借対照表、損益計算書及び損益処分
  • 附帯業務又は兼営事業があるときは、その種類及び概要を記載した書類