倉庫業法違反の事例と解説を書こうと思ったが見当たらなかったので札幌地裁平24.6.7の解説を書いてみた

先日、倉庫業法違反の事例が見当たらなかったので代わりに超重要判例である最判昭57.9.7について書かせていただきました。

倉庫業法違反の事例と解説を書こうと思ったが見当たらなかったので最判昭57.9.7の解説を書いてみた

思いの外、好評だったようなので調子に乗って今回は倉庫業法違反の事例が見当たらなかったのでシリーズ』第二弾として札幌地裁平24.6.7の裁判について解説してみたいと思います。


札幌地裁平24.6.7の特徴は、かなり実務に即した判例だということです。最判昭57.9.7は民法の適用について示した重要な判例ですが、あまり実務の上で意識する判例と言えないので、今回のものは対照的な判例かも知れません。

ワインセラーとして営業していた倉庫業者に対して寄託者が損害賠償請求をした事例となっています。

注意

本件の解説にあたり特定の個人・法人を識別することができる情報については省略させていただきます。また分かりやすくするために裁判のその他詳細についても省略等をしています。ご留意のほど、よろしくお願いいたします。

どのような裁判か

【裁判年月日】平成24年6月7日

【事件名】損害賠償請求事件

【裁判結果】一部認容、一部棄却

【上訴等】確定

経緯

優良トランクルームの認定を受けた倉庫業者が営むワインセラーの定温・定湿義務違反により、預けていたワインの品質が損なわれたとして委託者であるワインの所有者が倉庫業者に対して損害賠償請求をした。ワインセラーは寄託者に対して無断改造がされており、またワインの管理についての人員に不備があったことなども分かった。

争点
  • 倉庫業者の定温・定湿義務違反
  • 保管場所の無断改造
  • 人員配置体制の不備
  • ワインの損害
  • 慰謝料

経緯の図解

第一段階としては、『ワインの寄託→ワインを保管していたダンボールの変形およびワインセラーの改造の発見→管理体制への説明請求→管理者の不在・制御機器の狂い・チェック不備等の報告→双方立会いにより現状の確認と対策案への合意』というものでした。

残念ながらこれで終わりではありません。そうです、最後に合意で終わらなかったために裁判になってしまったのです。

第二段階としては『ワインセラーの奥にチョコレートを発見→ワインリストの完成→専門家の選定が難航していることの報告→ワインセラーに戻すことの提案→ワインセラーのチェコレートと改造時の間仕切壁がなくなっていたが天井通風口にカビを発見したためワインの移動を拒否→H18.10以降の保管料の返還→調査は専門家が手配できなかったため中止、代替ワインの探索も中止、搬出費用負担の提示の報告→ワインを自宅に移動』

それぞれの主張と裁判所の判断

原告・被告それぞれの主張と裁判所の判断です。

①定温・定湿義務違反

裁判所

契約時に温度14度前後、湿度75%前後とする合意はなされていたが、その前後の範囲については合意していたわけではない。温度についてほぼ13度から17度で保たれていたものの、ワインのラベルやキャップシールにカビが発生していたことから89%近くの高湿度であったことは認められる。H19.1~2にワインセラーが低温になったことは認められるが、本件のワインはすでに運び出されていた。また温度管理表を見る限りH18.12から低温になっていたことは認められない。

ただ湿度についてもカビが生えたもののコルク栓がされたワインに影響があったとは考えにくい。ただこの状況が原告に明示されたとしたら、わざわざ料金を払って本件ワインセラーを利用するとは考えられず、本件寄託契約を中途解約した可能性は否定できない。また被告には定温・定湿義務に違反があったというべきだが、不法行為であるとまでは言えない。

倉庫業法25条の5第1項
第二十五条の認定を受けたトランクルーム(以下「認定トランクルーム」という。)をその営業に使用する倉庫業者(以下「認定トランクルーム業者」という。)は、認定トランクルームを前条第一項の基準に適合するように維持しなければならない。
倉庫業法25条の4第1項1号
国土交通大臣は、第二十五条の二の規定による認定の申請が次に掲げる基準に適合すると認めるときでなければ、第二十五条の認定をしてはならない。
一 当該トランクルームの施設及び設備が保管する物品の種類に応じて国土交通省令で定める基準に適合するものであること。
倉庫業法施行規則21条1項1号、2号
法第二十五条の四第一項第一号のトランクルーム(一類倉庫に該当するものに限る。)の施設及び設備の基準は、次の各号に掲げる物品の種類ごとに、それぞれ当該各号に定める性能を有するものとして国土交通大臣の定める基準を満たしていることとする。
一 酒類その他の温度により変質しやすい物品 定温性能

二 漆器類その他の湿度により変質しやすい物品 定湿性能

②保管場所の無断改造

裁判所

契約時に無断で保管場所の改造を行わない旨の合意があったとは言えない。また特に何かしらの義務違反があったとも言えない。

③人員配置体制の不備

裁判所

ワインの管理は温度と湿度を中心としているので、機械の設置とその管理を行えば可能である。また管理自体も機械の操作ができれば良いので、特にワインの専門知識を要するものではないことから、人員についての義務違反があったとは言えない。

倉庫業法25条の5第1項
第二十五条の認定を受けたトランクルーム(以下「認定トランクルーム」という。)をその営業に使用する倉庫業者(以下「認定トランクルーム業者」という。)は、認定トランクルームを前条第一項の基準に適合するように維持しなければならない。
倉庫業法25条の4第1項3号
国土交通大臣は、第二十五条の二の規定による認定の申請が次に掲げる基準に適合すると認めるときでなければ、第二十五条の認定をしてはならない。
三 前二号に掲げるもののほか、当該トランクルームにおいて行われる営業が消費者の利益を保護するために特に必要と認められる国土交通省令で定める基準に適合するものであること。
倉庫業法施行規則21条2項1号、2号
法第二十五条の四第一項第三号のトランクルームにおいて行われる営業の基準は、次のとおりとする。

一 営業所ごとに、トランクルームの利用者からの相談の窓口が置かれていること。

二 相談窓口にトランクルームの営業に係る必要な知識及び能力を有している者が置かれていること。

④損害

裁判所

・定温・定湿義務違反があったとしてもワインに毀損があったことは認められない

・カビの発生状況や原告の妻が特に異常を感じていない点からH18.1からワインセラーの温湿度の管理がきちんとされていなかったと言える。その際に中途解約したとして、その後の保管料の約30万円が損害額である。

物的損害については一般的に慰謝料は認められない

・原告の債務不履行による損害賠償なので、不法行為と同視することはできない。そのため弁護士費用は損害ではない。

この裁判から倉庫業として学ぶべきこと

事件の経緯におけるこの倉庫業者の対応を見ると、この裁判所の判決は意外なものだったかも知れません。裁判で損害として認められたのは、カビ等の異変が発覚した後からの委託契約の保管料のみです。それはワインの毀損としてではなく、『委託者が倉庫の状態がこのようなものだと知っていた場合は契約しなかっただろうから』という消極的な理由でした。

しかしながら寄託物がワインという密封された瓶に入れられたものでは無かった場合(例えば高価な着物など)はまた違った判決になっていたことでしょう。

認定された損害額は中途解約した場合の保管料のみという少額なものでしたが、この裁判はこの倉庫業者にとって決して良いものでは無かったはずです。裁判費用についてはもちろん当人で負担する必要があります。また裁判の結果がどうであれ、訴えを起こされた事による風評被害が起こる可能性もあります。

この事件は制御機器の故障によるものであり、もちろん倉庫業者の故意によるものではありません。このような自体を避けるためには制御装置や温度・湿度等の測定機器の定期チェックがより丹念に必要だと言えます。またこの裁判のように長期間の寄託契約が問題になることを想定し、定期チェックの帳票は破棄せずに全期間に渡って保管すると良いでしょう。

まとめ

  1. 優良トランクルームの認定を受けた倉庫業者が寄託者に訴えられた
  2. ワインセラーとして営業していたがワインのラベルとキャップシールにカビが発生
  3. 寄託者に無断で倉庫内の改造を行っていた
  4. ワイン専門の管理者も不在だった
  5. カビ発生は制御装置の故障によるもの
  6. 裁判で認めれた損害額はカビ発生後の保管料のみ
  7. 倉庫業では制御装置の管理と定期チェックが肝心



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