取り返しがつかなくなる前に認知症が疑われる高齢運転者に家族ができること

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はじめに 高齢運転者の現状について

年齢別運転免許保有者数

現在の日本では人口の高齢化にともない自動車免許の保有者も高齢化となっています。
平成29年度末に警察庁が発表した最新の統計によると、65歳以上の高齢者にあたる年齢層の免許保有者数は約1818万人におよびます。
この数は総免許保有者数の22%です。

警察庁発表「運転免許統計(平成29年版)」より

 

高齢運転者の事故

実際に親御さんが現役で自動車を運転されている方も多いのではないでしょうか。そうなると最近気になるのは、やはり交通事故のことだと思います。

警察庁発表によれば全体の事故件数は減少傾向にあるのに対し、75歳以上の高齢運転者による事故の全体に対する割合、特に死亡事故の割合が増加傾向なのが分かります。

平成27年では全体の死亡事故件数が3,585件なのに対し、75歳以上の高齢運転者による死亡事故件数は458件でした。75歳以上の運転免許保有者数は全体の6.6%なのに、死亡事故件数は全体の12.8%ですから、非常に割合が高いことが分かります。


警察庁発表「高齢運転者に係る交通事故の現状」より

認知症の現状について

認知症患者数の割合

内閣府が発表した平成28年版高齢社会白書によると、認知症患者の割合(有病率)は65歳以上の15.7%だと推定されています。


内閣府発表「平成28年版高齢社会白書」より

ここでいう認知症患者の割合(有病率)はあくまで推定の数ですから、実際には認知症なのに医師の診断をまだ受けていない人の数も含まれてしまっています。

認知症と運転免許

公安委員会による免許の失効または停止

現在、日本では道路交通法103条により住所地を管轄する公安委員会は、認知症と診断された者に対し認知機能検査を実施し不適合の場合は免許の失効または停止をすることができます。

認知機能検査は免許の更新時や一定の交通違反行為をした場合に実施されます。つまり現状では医師に認知症と診断されたからといって自動的に免許が失効または停止になるわけではありません。

医師の届出制度

道路交通法の一部改正により、平成26年6月1日から一定の病気等にかかっている運転者を医師が運転に支障があると判断した場合に、任意で公安委員会に届け出ることができる制度が新設されました。

診断結果により、暫定的な停止処分か臨時の適性検査を免許の失効がなされる場合があります。

免許が失効になっても事故をふせげるわけではない

残念ながら認知症により免許が失効になったとしても事故が起こらないとは限りません。免許が失効したことも分からず家族の車で運転に出てしまう事例は多くあります。また実際に認知症に免許を取り消されていた76歳の男性が交通事故を起こした例もあります。

認知症で免許取り消しの76歳、無免許容疑 バスと接触|朝日新聞

宮前署によると、男は10日午後1時5分ごろ、同区の市道で無免許で車を運転した疑いがある。男が路線バスと接触する事故を起こし、発覚したという。昨年9月の免許更新の際、改正道路交通法で義務づけられた認知機能検査で認知症の診断が出たため、同12月に県公安委員会が免許を取り消していた。

認知症が疑われる高齢者の家族ができること

かかりつけの医師がいるならば家族が付き添いをし、その際に医師に相談してみるのも手でしょう。医師からご本人に説得することで自ら運転をやめるケースも多くあります。

しかし病院に行くことを嫌がっている場合や免許が失効したとしても車に乗ってしまう可能性がある場合、自動車を物理的に運転出来ないようにする方法があります。

自動車に対する処置

  • 自動車のキーを隠す
  • キーを交換し発進できなようにする
  • バッテリーを外し自動車が故障したかのように装う
  • 駐車場を自宅から離れた場所に借りる

注意して欲しいのはご本人に乗って欲しくないからキーを隠したと伝えてしまっては駄目だということです。

これらの方法を用いる場合は自動車自体に原因があるため乗れなくなったとご本人に理解してもらうようにしましょう。

そして、あくまで最終手段的なやり方と理解して下さい。場合によってはご本人の自尊心を深く傷つけ、家族の絆にヒビが入ってしまうことになりかねないからです。特に認知症の初期段階にある場合、こうした行為は無礼で敵対的な行為として取られる可能性があります。

アキヤマ

自動車に対する処置は最終手段!

やはり最も適切だと思われる方法は、ご本人の自覚を促し自らの意思で自動車に乗らないようになることでしょう。

いくつかの場合、ご本人は運転することに困難を感じており、運転をやめるように言われると安心感を覚えると言われています。しかし長年の運転に誇りを持ち、免許返納に強い喪失感があるため躊躇していらっしゃる方が多いのも事実です。

次回は、運転をやめたほうが良いかを確認する家族診断編と、それをもとにご本人に自覚を促す説得編の記事を掲載しようと思います。

認知症がある高齢運転者の車対策①『家族診断編』 認知症がある高齢運転者の車対策②『説得編』