前回は倉庫業法の罰則についての記事を書かせていただきました。罰則は一年の懲役・100万円以下の罰金という一番重いものから、50万円の過料までの5段階に別れています。
ということで、今回は実際にあった倉庫業法違反の事例とそれについての解説を書いていこうと…
思ったけれども事例がない!!!
裁判所が公表している裁判例情報やD1-Law.comという裁判記録のデータベースで調べてみても、私が調べれる範囲内では倉庫業法を違反した場合の判例が見当たりませんでした。
裁判の前の段階ともいえる行政処分についても、国土交通省で公開されているものは1件だけです。
国土交通省では行政処分についてはネガティブ情報等検索サイトにて多くを公開していますが、そちらでも倉庫業についての項目はありません。もしかしたら倉庫業に関しては皆さん倉庫業法をシッカリと遵守されているか、取り締まりする余力が国土交通省にないのかも知れません。(正式に国土交通省が発表していだけで行政指導は何件かあるようですが…)
しかしながら倉庫業法違反の事例が無いからと言って、倉庫業において法令違反またはトラブルが無いというわけではありません。
そこで今回は倉庫業法以外で倉庫業者が関係した重要な判例を1つご紹介したいと思います。
判例には多くの法解釈・学説があります。また分かりやすくするために裁判の詳細について省略等をしています。ご留意のほど、よろしくお願いいたします。
【追記】
『倉庫業法違反の事例が見当たらなかったので~』がシリーズ化しました!
どのような裁判か
【裁判年月日】昭和57年9月7日
【事件名】第三者異議上告事件
【裁判結果】棄却
【上訴等】確定
寄託者は倉庫業者に寄託中の売買の目的物を引き渡す手段として『荷渡指図書』を発行して、正本を倉庫業者に、副本を目的物の譲受人に交付した。正本の交付を受けた倉庫業者は、寄託者の意思を確認するなどして、寄託者台帳上の寄託者名義を目的物の譲受人に変更した。
荷渡指図書に基づき倉庫業者の寄託者台張上の寄託者名義が変更され寄託の目的物の譲受人が指図による占有移転を受けた場合と民法192条の適用
倉庫業では通常はお客さま(寄託者)から荷物を預かり、そしてお客さま(寄託者)からの申し出によって荷物をお返しします。しかし、お客さま(寄託者)が『荷渡指図書』を発行して、倉庫業者が寄託者台張上の寄託者名義を目的物の譲受人に『指図による占有移転』をした場合は『民法192条』の適用はされるのかどうかが裁判されました。
四種類の引渡し
こちらの記事に図解とともに分かりやすく解説しています。指図による占有移転についても解説しています。
図解
今回の裁判ではこのような関係図になります。
なぜこの裁判をする必要があったのか
そもそもなぜ民法192条によって『即時取得』が認められているのかというと、動産取引の安全を図るためなのです。取引の相手が真の所有者でなかったことが自分の知りえない事だったのに、動産の権利が無効になってしまったのでは、皆さん安心して動産の取引が出来なくなってしまうからです。
例えばコンビニに入って置いてあったジュースを買ったとします。しかし実はジュースの卸売業者とコンビニの間でトラブルがあり、実際はコンビニではなく、卸売業者がジュース真の所有者だったらどうなるでしょう。もし即時取得という決まりごとが無かったらジュースの購入者に卸売業者に対しての返還義務に発生してしまうのです。もしジュースをすでに飲んでしまっているなら弁償をすることになってしまいます。コンビニに代金の返還を求めるのも大変です。
自分の素知らぬ所のトラブルで弁償するはめになってしまったら誰もコンビニで物を購入する気になんてなれないでしょう。
しかしながら、実は即時取得が認められる『引き渡し』では『一般外観上従来の占有状態に変更が生じた』ことが必要とされていました。つまりコンビニの例では、コンビニのレジで会計をしてジュースを持ち出すことなどです。
四種類の『引き渡し』のうち、『現実の引き渡し』『簡易の引渡し』については一般外観上従来の占有状態に変更が生じたといえるので即時取得が認められます。しかし『占有改定』そして『指図による占有移転』については即時取得が認められないと考えられていました。ただあくまで学説上の判断でしたので、裁判によって決着を付ける必要が出てきたのです。
まず『占有改定』については最判昭35.2.11によって外観上の占有状態に変更がないため、即時取得は認められないと裁判で判断されました。占有改定とは、例えば売主が目的物を買主に渡さずに、買主から賃貸してるという形をとって引き続き自分で占有し続けることで、外から見て占有の状態について変化があるかわかりません。
そして次に今回の『指図による占有移転』について裁判によって判断されることとなったのです。
結果
『荷渡指図書』の発行によってなされた『指図による占有移転』でも『即時取得』は認められる。
なぜ即時取得が認められたか
一見『指図による占有移転』においても、間接的占有者は同じままなので『一般外観上従来の占有状態に変更が生じた』とは言えなさそうです。しかし、今回の裁判のおいては『指図による占有移転』において即時取得が認めれてました。一体なぜでしょう。
つまり即時取得となる『引き渡し』が『占有改定』とは違い商取引としてオープンであったということが理由のようです。実際に、この『指図による占有移転』による即時取得も、倉庫業者を利用し荷渡指図書を発行した場合の限定的なものではないかと言われているそうです。
倉庫業にとってのこの裁判の意味
この裁判においては倉庫業者はあくまで第三者の立場でした。発行された荷渡指図書に従い、寄託者台張上の名義を書き換えただけです。しかしそれが逆に倉庫業者の立場を難しいものにしています。
倉庫業者にとっては預かった荷物の真の所有者など分かるはずもなく、お客さまの売買関係や利害関係なども知りようがありません。しかしながらこの裁判のように巻き込まれてしまうことがあるのです。このような裁判の結果がなければ倉庫業の業務リスクはとても高いものとなっていたことでしょう。
このような事例に限らずにも倉庫業には詐欺などに巻き込まれてしまうリスクがあります。この裁判の倉庫業者は荷渡指図書の交付を受けた際に、寄託者の意思を改めてきちんと確認していました。もし荷渡指図書が偽造されたもので寄託者の意思確認を怠り荷物を渡してしまっていたのなら、もしかしら損害賠償をする必要があるかも知れません。自分自身の身を守るためにも、もちろん信頼のためにも確認作業はきちんとする必要があるでしょう。
まとめ
- 倉庫業法違反の事例は見当たらない
- しかし倉庫業に関する重要判例がある
- 指図による占有移転で即時取得は認められかどうかの裁判
- 即時取得は動産取引の安全のためにある
- 占有改定では即時取得は認められない
- 一般外観上従来の占有状態に変更が生じたことが即時取得には必要
- 倉庫業の荷渡指図書を交付した場合は指図による占有移転でも即時取得が認められる
- 倉庫業者は第三者の立場なので確認作業が大事