いざ相続手続きをしようとすると、名義変更をしなくてはならない財産の多さに驚いてしまうものです。
「あ~あらかじめ名義変更をしとけば良かった…」なんて思われる方も多いでしょう。それもちゃんと正しく出来ているのか…、悩みが尽きないですよね。
インターネットで自動車の相続について検索してみると、陸運局での名義変更手続きについてだけ書かれている記事が多いと思います。しかし実際はそれだけが自動車の相続ではありません。
この記事では自動車の相続手続きをすることになってしまった場合に、何をすれば良いのかをパターン別でご紹介していきたいと思います。面倒になりがちな手続きをできるだけ簡単に理解できるようにご紹介したいと思います。
アキヤマ
目次
この記事は、自動車の所有者が故人本人であったことを前提にして書いてあります。
自動車をリース契約やローン契約で購入されていた場合は相続人は名義変更ができません。なぜならば自動車の所有者はその契約会社の名義になっているからです。リースやローンが残っているならばそれはマイナスの相続財産ですので、その契約の相続についてまた別に検討しなくてはなりません。(この記事では省略させていただきます)まずは契約会社に連絡して確認して下さい。
リース契約やローン契約がされているかどうかを確認する方法は、車検証を見れば分かります。車検証の所有者欄か備考欄にその契約会社名が記載されていますので、ネットで連絡先を検索しましょう。
覚えがない方でもいったんは車検証を車から出して確認することをオススメします。
用語説明
このページにおいて使われる用語を簡単に説明します。
名義変更 | 陸運局に登録されている自動車の所有者の名義を変更 |
被相続人 | 自動車を所有していた故人 |
相続人 | 財産を引き継ぐ権利を持つ人 |
遺産分割協議書 | 相続人が複数名いる場合に遺産の分け方について話し合い、それを記した書類 |
遺産分割協議成立申立書 | 自動車の価値が100万円以下の場合に遺産分割協議書の代わりとなる書類 |
自動車保険 | 自動車に乗るために加入する保険。自賠責保険と任意保険の2つがある |
自賠責保険 | 車を乗る際に絶対加入しなければならない保険 |
任意保険 | 自賠責保険とは別に自分で任意に加入する保険 |
できること
相続人が自動車に対してできることは3つのパターンに分類できます。
- 名義変更して乗る
- 廃車または売却
- 一時抹消
名義変更して乗る
相続人がそのまま車に乗る場合です。手順は以下のようになります。またこの際、別居の親族に名義変更する場合は車庫証明書の取得や自動車保険の新規加入で、同居の親族よりも費用がかかることになります。
- 遺産相続手続き
- 陸運局での名義変更
- 自動車保険の名義変更(任意保険および自賠責保険)
- 駐車場の賃貸契約の名義変更(借りてない場合は不必要)
廃車・売却
車を乗る予定がない場合は廃車もしくは売却することになります。廃車・買取業者に頼めば陸運局での手続きを代行してくれますが、その分は査定額が低くなることもあります。
- 遺産相続手続き
- 廃車業者または買取業者に連絡
- 自動車保険の解約(任意保険および自賠責保険)
- 駐車場の賃貸契約の解約(借りてない場合は不必要)
一時抹消
すぐには乗る予定がないが将来的に乗りたい場合はナンバーを返納しましょう。乗らない間の自動車税をストップできます。陸運局に外したナンバープレートを持ち込んで手続きします。車体はそのまま保管することになります。
- 遺産相続手続き
- 陸運局での名義変更
- 陸運局で一時抹消(名義変更と同時にやる)
- 自動車保険の中断証明書発行 (任意保険のみ)
- 駐車場の賃貸契約の名義変更(借りてない場合は不必要)
共通事項
上記の3つのパターン全てにおいて遺産相続手続きをしなければなりません。
自動車を乗るのも捨てるのも売るのも一旦使用できなくするのも、その自動車の所有者の権利なので、まずはその権利を相続する必要があるのです。「免許を持っていないのでそのまま売ってしまおう」というのはNGです。
また遺産相続手続きが済んでいない状態で、その自動車に乗っていても道路交通法上では特に罰則はありませんが、盗難や事故に巻き込まれた際に手続きが遅れてしまうことがあります。ご心配ならば出来るだけ早く手続きをするよう心がけて下さい。
遺産相続手続きは被相続人が亡くなってから3ヶ月から4ヶ月以内にするのが一般的となっています。具体的にどうすれば良いか次の項目で説明していきたいと思います。
遺産相続手続きとは
ずばり自動車の遺産分割協議書を作ることが遺産相続手続きの最終目的です。
自動車の権利を引き継ぐためには相続人同士で話し合い(協議)をし、合意に至ったらそれを証明する書類を作成する必要があります。
遺産分割協議書を陸運局に提出することで自動車の名義変更をすることができるのです。例外的に遺言書で自動車について指定されているならば、遺産分割協議書は不要です。
他の財産を含めた遺産相続全体の細かい説明については他日に譲るとして、ここでは自動車の遺産相続協議書を作ることを目的に手順を説明したいと思います。
- 遺言書を探す
- 相続人を調べる(平成29年から開始の法定相続情報証明制度が使える)
- 自動車の査定をする(次の項目で詳しく説明します)
- マイナスの遺産についても調べる
- 自動車の維持費用について調べる
- 各相続人に連絡する
- 相続方法を相続人同士の話し合いで決める
- 遺産分割協議書を作成する
他の財産についての分割方法が決まってない段階でも、とりあえず自動車についてのみ遺産分割協議書を作成することができます。あくまでも遺産分割は相続人同士の合意によるものですので、よくよく話し合いをして決めましょう。
遺産分割協議書の作成への話し合いがまとまらない場合は残念ながら裁判所の力を借りる必要があります。裁判所では、まずは遺産分割調停があり、それでもまとまらない場合は遺産分割審判、その次に訴訟と順番に手続きが進みます。それぞれの裁判所の手続きによって作成された書類を、陸運局に提出することになります。
陸運局にて提出可能な相続に関する書類は以下の通りです。
- 遺産分割協議書
- 遺言書
- 遺産分割協議成立申立書および車の査定書
- 遺産分割に関する調停調書
- 遺産分割に関する審判書(確定証明書付)
- 判決謄本(確定証明書付)
自動車の査定
相続において自動車の価格が100万円以下ですと、遺産分割協議書の代わりに遺産分割協議成立申立書を提出すれば済みます。
遺産分割協議成立申立書では、印鑑証明と実印は代表相続人の1人分だけで足りますので費用・労力ともに楽になります。ただ、自動車の価格が100万円以下であることを証明する書類である査定証明書が必要となります。
買取業者では無料で査定を行っても証明書の発行はしてくれませんので、JAAI(一般財団法人日本自動車査定協会)に査定を依頼しましょう。
相続税や相続人同士のトラブルの回避のためにも査定証明書を作っておいたほうが良いでしょう。価格は普通車ですと7,020円からです。
陸運局での名義変更
いよいよ陸運局にて名義変更の手続きとなります。
必要書類は以下となります。
必要書類 | 備考 |
OCRシート 第一号様式 | 陸運局の窓口で購入 |
実印 | OCRシートに押印 |
手数料納付書 | 所定の手数料印紙を貼付 |
印鑑(登録)証明書 | 発行されてから3ヶ月以内 |
遺産分割協議書 | このうちどれか |
遺言書 | |
遺産分割協議成立申立書および車の査定書 | |
遺産分割に関する調停調書 | |
遺産分割に関する審判書(確定証明書付) | |
判決謄本(確定証明書付) | |
戸籍謄本または戸籍の全部事項証明書 | 法定相続情報証明制度も使える |
委任状 | 代理人よる申請の場合のみ |
自動車検査証 | 車検証のこと |
自動車損害賠償責任保険証明書 | 自賠責のこと |
自動車税・自動車取得申告書 | 陸運局に隣接した税事務所で使用 |
自動車登録番号標交付通知 | ナンバー変更を伴う場合 |
車庫証明書 | 使用の本拠が変わる場合のみ |
※軽自動車の場合は遺産分割協議書及び戸籍謄本印鑑証明書の必要はありません。代表相続人が軽自動車検査協会で手続きを行います。
一時抹消の場合
一時抹消する場合は上記の書類に加えて、さらに以下のものを提出します
さらに印鑑(登録)証明書 | 計2枚 |
OCRシート 第3号様式の2 | |
ナンバープレート | 前と後ろの二枚 |
自動車保険について
さて無事に陸運局にて名義変更を終えました。本当にお疲れ様でした。
ところがまだ終わりではありません。もうひと踏ん張り、忘れずにして欲しいことがあります。
それは自動車保険の名義変更です。
通常、自動車に乗る場合は自動車保険をかけていますので、保険を有効にするために名義変更をする必要があります。
自賠責保険
自賠責保険は正式名称を『自動車損害賠償責任保険』といいます。書類は車検証と一緒に、自動車に積んでいるはずです。
名義変更は自賠責保険を発行した保険会社の支店窓口に直接行って、名義変更してもらいます。その保険会社の支店窓口であれば、どこでも大丈夫です。自賠責保険に保険会社名が記載されていますのでインターネットで最寄りの支店窓口を調べましょう。
自賠責保険の名義変更の手数料は必要ありません。
任意保険
任意保険は自分で好きな保険会社を選んで加入するものです。
自賠責保険とは別の保険会社で加入することも多々ありますので、任意保険の証券を探してください。証券は保険会社から被相続人の自宅に郵送されているはずです。
名義変更
同居の親族は任意保険の等級を引き継ぐことができます。等級とは保険を更新するたびに割引率が上がっていく制度のことです。等級が進んでいる保険ならば、新規で入り直す場合よりかなり保険料がお安くなります。
任意保険の証券に記載されている代理店または保険会社に連絡して相続の手続きを取ってもらいましょう。直接、窓口に行かなくてとも郵送にて処理が終わります。
解約
相続人の方が同居の親族でないならば残念ながら等級は引き継げません。被相続人名義の保険の解約、および相続人名義での新規加入が必要です。
中断証明書発行
自動車を廃車・売却・一時抹消した場合でも等級を引き継ぎ、それ保管をすることができます。自動車をまた乗ることになった際に、その等級ありの状態で保険を復活させて加入することができるます。
証券に記載されている代理店又は保険会社に連絡して、保険の解約と中断証明書発行の依頼をしましょう。
駐車場の賃貸契約について
駐車場を目的とした土地の賃貸契約については法律で保護されてるわけではなく、手続きについても規定がありません。契約についての対応もバラバラですので、管理会社や貸主に連絡して契約の名義を変更できるかきいてみると良いでしょう。
まとめ
自動車の相続には3つのパターンがありましたが、ほとんど基本的にすべて同じ流れと言えるでしょう。しっかりと遺産相続手続きをして、その話し合いをもとに自動車の登録と関係ある契約の名義を変更するという流れです。無理なく急がずにきちんと手続きをするようにしましょう。