『倉庫業法違反の事例が見当たらなかったのでシリーズ』第四弾として東京地裁昭55.3.14の解説を書いてきます。
今回からタイトルは短くしていこうと思います。あまりに前が長すぎましたので 😛
『政府米の損害の責任が倉庫業者にあったかどうか』が東京地裁昭55.3.1では判断されました。
政府米と聞いてピンと来た方もいらっしゃるかも知れません。最近でも政府米の備蓄についてのトラブルがありました。
参考
日通、備蓄米の保管で不正 包装破れなど隠す日本経済新聞
政府米とは別名・備蓄米と呼ばれ、食料管理制度により政府が生産者から直接買い取り管理しているお米のことです。対義語は民間流通米ということなります。
ニュースを最初に読んだ時は、「備蓄米ってこんな感じで業者に委託して保管してるんだなぁ」ぐらいにしか思っていませんでした。しかし今回の判例について調べていくうちに、お米を大量に長期間保管することの難しさを知りました。
今回の判例においては青カビと虫害が発生しましたが、どうやらそれでも倉庫業者に責任がなかったようです。いったいどういうことでしょうか。分かりやすく解説していきます。
目次
どのような裁判か
国から委託を受けた倉庫業者が保管していた政府米において青カビおよび虫害が発生した。
青カビおよび虫害の発生について倉庫業者に責任はあるのかどうか
判例の解説
契約内容
国と倉庫業者は昭和42年4月1日から昭和43年3月31日の間に、15日間を一期として、一期あたり60kgにつき金9円51銭とする政府米の寄託契約をした。政府米の内訳は麻袋18,130袋と叺8,551袋であった。
発覚経緯と損害
昭和42年8月26日に国は卸業者に政府米を麻袋4421袋、叺4400袋売却した。その際に欠減と虫害のクレームが付けられた。
その後もくん蒸4の処理や卸商協同組合の調整金を使った措置などにより損害を最小限にするように努力されたが、結果的に麻袋100袋分が処理しきれずに事故品となり、損害額は146,060円となった。
損害について
初めの卸業者への売却後の再仕訳において、青カビと虫害が確認された。
青カビはモス米菌(Penicillium Commune)の寄生繁殖によるもの
虫害は、のしめ穀蛾とこくぞうによるものであった。(画像省略)
損害の原因
裁判において、損害は以下の事項が原因として考えられました。
米の過剰水分
青カビに関しては、米の過剰水分が原因であることが技術的研究から分かっている。水分16%以上の軟質米5によく発生し、菌に侵食された部分は当初は白色だが数日で青緑色に米が変わり最終的には光沢を失い砕けやすくなる。
当初の昭和42年8月26日の売却およびクレームにおいては青カビが発見されていない。
寄託契約をした米は、山形産の三級玄米であったが農産物規格規定により水分含有量は最高限度16%と決められている。ただし倉庫に搬入される貨車輸送の段階で水分含有量が16%以上のものが全体の15%は存在していたことが推定される。
虫の持ち込み
虫害の発生においては虫が環境内に持ち込まれることが必要だが、その時期が寄託契約前なのか後なのかを知るすべは無い。寄託契約中、倉庫には2,3日おきに米が入庫されるような状況であり、産地から虫が持ち込まれた可能性も否定できない。
異常高温
昭和42年の夏は平年の30.9度に比べ高温の日が続いていた。
気象庁 昭和42年夏の高温・少雨 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/kanman/1967/1967.html
被告の過失の有無
それでは損害の原因に対して倉庫業者(被告)には過失が有ったのでしょうか。
むれ米の防止
米の過剰水分は、風通しの良い袋の外部では水分の蒸発により量目の欠減として現われ、風通しの悪い内部や下部においては「むれ米」として現れる。本件についても「むれ米」が主因だと考えられるが、その対策としては水分含有量の多い米の搬入を拒否することが一番である。
しかしながら政府米の寄託契約の特殊性や貨車輸送による大量に入庫される状況においては、搬入の拒否は現実的ではない。また搬入後に水分測定結果が入庫後に発覚するような現状では到底取り得ない方法であった。
また入庫後に満遍なく風を当てるために天地返し等の処置をするにしても労力やスペース的に考えて現実的ではなかった。
また当時、米の包装には麻袋と叺6が使用されていた。麻袋は従来使用されていた俵よりも他の袋との接触面積が大きく、風通しが悪い。叺も機械じめで締め上げるために通気が悪かった。
くん蒸処理の難しさ
虫害についても水分含有量が多いと発生しやすいことが分かっている。つまり青カビと同じく対応は難しかったと思われる。
倉庫業者の保管管理日表によると成虫の「のしめ」と「こくぞう」が散見されたことが記されている。虫害が発生した場合は、くん蒸の処理をもって対応するべきであるが、くん蒸自体は米の自律作用を低下させ、死米を生じさせるものなので一般的には避けられるべきものであるし、虫害は幼虫時代に発生するものであるので発見段階でくん蒸をしても無意味だった可能性が高い。
倉庫の構造
使用されていた倉庫は鉄骨平屋建のくん蒸可能な政府指定倉庫であった。火災保険においては2級Bとされており、3級もある政府指定倉庫にあっては普通といえるものであった。
構造上は鉄骨造りの外側建物の内部に、木造モルタル式の内側建物がある二重構造である。外側建物には固定式・回転式のガラス窓があり、それに対応して内側建物には窓枠が設けてあったがガラスははめられていなかった。
倉庫の造りに本件の要因となるような過失は認められなかった。
裁判所の判断
裁判所
この裁判から倉庫業として学ぶべきこと
この件を倉庫業者の側から総括するのは正直難しいかも知れません。米の保管という特殊性からある程度の青カビや虫害の発生は避けようがないように見受けられます。水分含有量が低すぎても米は欠減等の問題が出てきてしまうので、風通しを良くするなどの処置をする必要がありますが、包装や量、または保管料の問題から対応を完璧にしていくことは難しいでしょう。
米の包装が俵から麻袋と叺に変わったことが一因だということには驚きました。今はフレキシブルコンテナや樹脂袋が主流なようですが、技術的な時代背景も原因のようですね。
農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/seisan/boeki/beibaku_anzen/kabikabidokukensa_surveillance/kabi_check.html
倉庫業者としてできることと言えば、検査により水分含有量が多かった場合や虫が少量でも発見された場合はすぐに報告し、指示をあおぐことが最善といえるでしょう。
まとめ
- 原告と被告は政府米の委託契約をした
- 原告が卸業者に米を売却したところ欠減と虫害が発見された
- その後の再仕訳において青カビと虫害が確認された
- くん蒸や調整金の処理をしたが最終的には不良品として損害が残った
- 青カビと虫害は米の水分含有量が主因
- 米の水分含有量を測定するのは難しい
- むれ米を防ぐ処理も現実的には難しい
- 虫害を防ぐくん蒸の処理も予備的にするのは難しい
- 倉庫の構造上問題がなくても事故は発生する
- 異常がみつかったならすぐに委託主に報告を
- 被告が同裁判中に原告に対して訴えを起こすこと
- 訴えを起こした側
- 訴えを起こされた側
- ガス化した薬剤を保管した場所に注入し殺虫・殺卵・殺カビを行うことです。
- 寒い地方で作られたお米で水分量が多く柔らかいのが特徴
- かます。わらむしろを二つ折りにし、縁を縫いとじた袋